これで200回。98年4月に書きはじめて、100回にとどくのは早かった。それから200回へはピッチが落ちた。アップロード環境が、たびたび変わることに影響され、ついに昨年は半年間の休載となった。
ひとが見てくれるかどうかに関係なく、自分が読むために書いているようなものだ。
本来の目的である、大学での授業の補助とする、という効果はあらわれている。何かが金融・資本市場で起こった時、自分が2―3年前に書いたことが、そっくりここで役立つことが時々ある。見てくれている人も少なくないようだ。だから、これからも続けます。
200という数字は100と違って、あまり意味はないようだ。歴史のみじかい米国は1976年に、建国200年を盛大に祝った。もっとも Bicentenaryという単語があるのだから、200年というのは意義がある数字かもしれない。米国は200年をすぎてから落ち目になった。三つの赤字が拡大し、70年代末期から90年代はじめまでは最悪だった。国家にもライフサイクルがあり、200年は一つの寿命かも知れない。
わが国では、ペリーの来航は150年前だが、200年前の1803年7月に米国の船が長崎にきて貿易を要求、幕府はこれを拒絶した。あの伊能忠敬が、測量にあるいていたころである。翌年の1804年9月、ロシアも長崎に漂流民を護送し、貿易を求めてきた。幕府は1805年3月になって、ようやく拒絶を回答し、ロシア船は長崎を去った。ペリー来航の50年前、いまから200年前に開国の要求があったのだ。それは江戸に幕府がひらかれて200年目の年だった。それからの年月は、落ち目の幕府による空白の50年であり、だからペリーによる武力をかざした開国要求は、だしぬけのショックとなったのだ。
日本の歴史としても、開国の予兆があった200年前を再認識しておきたい。
金融の世界で200といえば、200円札をわすれられない。昭和2年(1927年)、高橋是清は74才の病躯ながら金融危機の解決のため、大蔵大臣を引き受ける。就任の翌4月21日、全国の銀行に預金者が殺到し、日銀は非常貸出しをつづける。高橋是清の随想録によると、「日銀の貸出金は平常ニ億五千万円前後、多いときでも四億七―八千億円を超えない。それが21日の新規貸出しは六億円を突破した。」「日銀の兌換券の発行も平常は十億円内外だが、21日だけで六億三千万円が新規に発行された」「日銀では兌換券が不足となり、金庫の中に仕舞いこんであった破損札まで市中に出したが、それでもなお足らぬので、にわかに五円、十円札と二百円札を急増することになった。」日銀の「貨幣の玉手箱」51話にも記述がある。
二百円札は21日に使ったわけではない。是清は22日、23日の銀行一斉休業を実現し、24日は日曜だが日銀は銀行へ非常貸出を続けた。25日に預金者がおしよせるときの見せ金として、二百円札も用意したのだ。印刷が間に合わないにで、二百円札は裏が白紙だった。この札はどうなったか。
インターネットは便利だ。AOLサーチに「二百円札」をキーワードとして打つと、7800が表示される。
私の茶話、第144回、「危機を防いだ老人」もここに出てくる。
そこで知ったが、二百円札の発行は昭和2年4月25日、昭和2年5月12日、そして昭和17年1月6日であった。
「あいこいんずニュース」というのをみると、ほかに二百円札のその後がわかる。
「裏の白い「裏白二百円札」は、4月25日に511万枚、印刷された。」4月25日に見せ金として、取り付けにきた預金者の前に積上げられた。取り付けはおさまった。是清は、21日間のモラトリアム(1件500万円以上の債務の3週間の決済猶予)を実施した。それが終わったのが、5月12日だ。二百円札の2回目の発行日は、この日だ。750万枚が印刷されたという。それは裏が赤だったから裏赤という。是清の回顧によれば、そのときは何事もなく、二百円札は使うに至らず、6月2日に是清は約束どおり、大蔵大臣を辞任する。
だれもが知っているように、1936年の今日、是清は殺された。
いままで知らなかったが、二百円札はほかでも発行されていた。昭和17年1月6日に作成されていた二百円札が、終戦の翌日、昭和20年8月16日に発行されたそうだ。終戦により、多大な紙幣が必要となり、印刷局はすぐに対応できないので、つかわれたという。昭和21年3月で、この通用はおわったが、、裏赤二百円札、藤原ものとして珍重されているという。
二百円札は2回とも、非常時の切り札として、流通することなく市場から消えた。そのことを記憶しておく意義はある。3回目の二百円札は出るだろうか。前2回にくらべて物価水準はあがってしまった。デノミでもしなければ、二百円札は無意味である。
ただ、あの2回の二百円札発行の背景や精神は忘れたくない。
非常時への即時対応、緊急事態への事前の対応を、先人からは学ぶことができる。