2006年06月29日

326 署名入りの記事

326   署名入りの記事        06.6.25

国会での答弁だって、記者会見だって、慣れていたのだろうが、この10日間は日本銀行の福井俊彦総裁にとって、これまでにないマスコミへのExposureとなった。
あたかも、日本サッカーのゴールキーパーが、ブラジルの猛攻を浴びた日、予定されていた詰問の日程は終わった。日本チームはワールドカップ1次リーグに敗れて帰国したが、日本銀行チームの主将の福井総裁はゲームをあきらめていない。

国会答弁だけで、13日、15日、16日、22日、23日。その度に記者会見があった。
22日には、政府側から、小泉首相、安部官房長官、谷垣財務相、与謝野経済・財政金融相、日銀側から、福井総裁、武藤・岩田副総裁などが、on paradeで昼食懇談会をやったと報道されている。この会合のあと、小泉首相は「諸外国の例を調べて、資産公開や内部規定の見直し」を指示したと新聞は書いている。総裁の辞任は今のところ政府の四天王は要求していない。ただ、民主党など野党は承服しない。

こういう場合の新聞の論調は面白い。
朝日新聞は21日の社説で「総裁の椅子の重さ」を書いている。内容は、共同通信社の世論調査で「辞任すべき」49%、「辞任しなくてよい」13%などと紹介したうえ、きびしい論調である。「福井総裁の進退問題に決着がついたわけではない」と結んでいる。
その朝日新聞である。6月24日の土曜日に、朝日新聞が発行している「be」という別紙を見た。外売りでは本紙だけだし、家でも別紙は殆んど読まない。
今朝は、珍しくページを開いたら「福井総裁解任の損失」と題して編集委員の山田厚史氏が書いていた。

山田氏は福井総裁は「辞めるべきだ」という理由を10項目、「辞めることはない」という理由を10項目挙げている。これは、おおかたは同じ項目の解釈のウラ、オモテであって、ひところ流行った「チーズとバター」論議を借りている。
あとは、個人的に知っている福井総裁は、利殖に全く興味がない人であり、英エコノミスト誌が「世界一の中央銀行総裁」と評したことを紹介し、結びは、辞職により「美徳まで吹き飛ばすとしたら、失うものは大きすぎる」である。
社説と署名入りの記事との意見は正反対であるように、わたしは読んだ。

実は、おなじことは日経もやっていた。6月21日の社説で「信頼回復へ福井総裁の試練」と書いた朝刊に、編集委員の滝田洋一氏の署名入りの記事で「進退はマーケットが決めるのだ」と意味不明なことを書いている。
その後の日経の論調は、政府・与党べったりである。
日本の新聞は面白い。「社説」と「主要記事の論調」と「署名入り個人の意見」を、時には異なったまま載せている。英国のエコノミスト誌には個人の署名は無い。連載コラムと特別寄稿はべつにして、署名が付くのは年初にやる予測ものの記事にだけである。

日本では、一体、この新聞は何を考えているのか、社説と署名論説の両方を真面目に読むと困惑する。そんな読者は居ないと新聞社は思っているのだろうか。ところが、いろいろ分けて書いておくとメリットがあるのだ。

自民党の政調会長の中川秀直氏は、自分のホームページを開いている。
毎日、更新しているが、6月24日に前記の山田厚史氏の記事を取り上げ、賛成だとコメントしている。朝日の別紙「be」だって見ているのに恐れ入った。この中川氏は、新聞の社説や署名入りの論説を一つ取り上げ、要約して紹介と論評をしている。毎日やっているから、ごくろうなことである。
自民党の要職にある人の、むかしで言えば個人的検閲である。ほかの政治家だって、こんなことはやっているだろう。
新聞社のデスクや署名入りで書く大記者がそういうことを知らぬはずはない。
私は、あらためて考えている。新聞社と、署名入りの大記者は、それぞれ誰に読んでもらうことを期待して書いているのだろうか。それが一つでないから、社説などの匿名と、コラムなどの署名入り記事に自社の記者を配分しているのか。
そうだとしたら巧妙な両論併記である。

ところで、事件発覚の早い段階で与党の重鎮の何人かが、「日銀の現在の社内規定には抵触していないが、今後に備えて規定をみなすべきだ」と発言していた。新聞は忠実に、これを報道していた。
けれども、この人たちは自分で何分間ぐらい今の日銀の内規を読んだのだろうか。
私は日本銀行の社内規定を16日に読んでみた。

ホームページから取りA-4で印刷してみた。関連する社内規定は「日本銀行員の心得」4ページ、「服務に関する準則」2ページ、「株式買い入れ等に関する服務規制」2ページ、「贈与等、株取引等および所得等に関する報告要領」2ページと合計8ページある。細かく書かれた立派な社内規定である。届出義務としてヘッジフアンドという項目がなかったとか、保有資産の公開は規定していないから、不備な社内規定だというのは不当である。この8ページを熟読すれば、日本銀行の人が遵守すべき内容は、充分すぎるほど読み取ることが出来る。


Posted by kinnyuuronnsawa at 09:46│金融論茶話拾遺