2006年03月08日

貨幣流通速度異変

マネーサプライの12月速報が、1月11日に発表された。
悪夢の年、2001年の12月(平残)わが国のマネタリーベースは、日銀券発行高64.3兆円、貨幣流通高4.2兆円、日銀当座預金10.8兆円、合計79.4兆円であった。12月のマネタリーベースは前年同月比では実に16.9%という急増である。通常の年の年末資金ぐりのほか、9月の同時多発テロ後の世界的景気後退と、わが国の金融システム不安を回避するために、このところ日銀当座預金を増加させてきた結果である。このマネタリーベースをコアとして、経済活動につかわれている資金の総量であるマネーサプライも増加している。代表的な指標であるM2+CDは、12月平残662.2兆円で越年した。前年同月比3.4%の増加である。

景気は相変わらず名目GDP成長率がマイナスかゼロである。だから経済活動に必要なマネーはこんなに多くは必要ない。別の言い方をすれば、マネタリーベースを前年比16.9%、マネーサプライを前年比3.4%増加させるという画期的な量的金融緩和をつづけても景気は少しもよくならないのである。異常なことが起こっているのだ。

貨幣数量説というものがある。アービング・.フイッシャーはそれを、MV=PT と表した。M=貨幣供給量、V=貨幣の流通速度 P=一般物価水準、T=取引量であり、一般物価水準に取引量を掛けたPTは名目GDPと思えばよい。ここで貨幣の流通速度は短期的には変動が少ないと考えられてきた。だとすれば、貨幣供給量をふやせば、経済全体がフル稼働で、取引量がもはや増加しない古典派の経済学では、一般物価水準があがるしかない。
経済全体に過剰能力があるケインズ経済学では、物価があがらずに取引量がふえる。こうして金融の量的拡大は景気刺激に有効なはずである。


最近のわが国経済は、設備能力も労働力もあまっていて物価があがる状況ではない。現に物価Pは毎年さがりつづけている。そういう状況なのに貨幣供給量Mをいくら増加させても、取引量Tは活発にならない。MV=PTと要素は4個しかないから、のこりのひとつ貨幣の流通速度Vに原因があるのだ。貨幣の流通速度が短期的には変化がすくないということがおかしいことになる。MV=PTの右辺は名目GDPでよい。Mの貨幣供給量はマネタリーベースでもよいが、もっと広義にとらえ経済全体でつかわれている現金通貨と預金通貨を合わせたものがよい。そこで貨幣供給量としてマネーサプライ統計のM2+CDをとる。MV=PTはMV+M'V'=PTへと書きなおし、左辺の第1項は現金通貨の供給量とその流通速度、第2項は預金通貨の供給量とその流通速度である。

昨2001暦年の名目GDPは505.5兆円である。これにたいしてM2+CDは662.2兆円である。だから貨幣の流通速度は0.76回転である。毎年しらべてみると93年以降こうなっている。

93年0.95,94年0.94,95年0.93,96年0.92、97年0.91,98年0.86、99年0.83,00年0.81,01年0.76。

グラフにすれば分かり易いが、いちじるしい貨幣流通速度の低下であり、昨年はそれがはげしい。この原因の分析は次回にのてみたい。今日は長い経済学の歴史のなかで起こらなかったことが、いまわが国でいろいろ起こっている。それをまず直視しよう。事実の冷静な観察をわたしの新年の課題としよう。


Posted by kinnyuuronnsawa at 18:49│新・金融論茶話