927 近頃の芥川賞 2015．8.31
芥川賞、受賞作の「火花」を、文春の9月特別号で読んだ。
失望した。
何度も、途中でやめようと思ったが、どうにか、我慢して読んでみた。
嫌な理由
二人でやる漫才師の、サブ役の徳永が、他の組の主役である神谷と、熱海の花火大会で、出会って、異常な交友を続ける話が、蜿蜒と続いているだけである。
１）会うのは、夜か深夜、あるいは朝まで、二人は際限なく、飲む。
これが、二人の会話の殆んどを占めるが、読んでいて嫌悪感を抱く。
戦後、日本文学で、むやみに酒を飲み、文学論を振り回す若者が登場したが、今回は、二人の漫才師だけの会話である。
２）会話は、漫才ネタの試作や復習をしているように、セリフの先取り、隠喩、裏返し、新ギャグなど、言葉の遊びに終始している。
漫才マニアでない私にとっては、これは楽屋落ちの類で、面白くも何ともない。
３）サブ役の徳永は、若くて世間知らず、主役の神谷は、その正反対だ。
こうした対比は、かつての、ヤスシ、キヨシのコンビの方が、わかりやすくて明るくて、後になっては爽快であった。
４）致命的なのは、エンデイングである。
嫌悪感のみで、読まなきゃ好かったと思った。
なぜ受賞したのか。
文春9月特別号で、9名の選評があった。
全員が、ごく短く採り上げているだけで、作品を積極的に評価している人は居なかった、と読めた。
いちばん厳しいのは、村上龍氏で「長すぎる、途中から飽きた」と評している。
9名の選評が、こうなのに、どうして受賞したのか、わからない。
でも、二百万部も売れている。
若い時、芥川賞は、発表を楽しみにしていて、毎回、読んだ。
若者の新しい生態を描き、新しい世の中の到来を示唆する作品が、私の若い頃は、いくつか出現した。
「太陽の季節」「飼育」「広場の孤独」「忍ぶ川」「されどわれらが日々」
「限りなく透明に近いブルー」など、新しい時代を描いていた。
若い時、これらの作品に出合ったことは、幸せだった。
「明治大正文学全集」「世文」の世界から、私を引きずり出してくれた。
もう、この年になると、芥川賞を楽しみに待つことはない。
たまに、読めば、怒りに近い失望を感ずる。
そうしていたら、8月28日の日経朝刊の記事で、眼が覚めた。
「又吉氏の小説、「火花」映像化」とある。
芥川賞の受賞者である漫才師の又吉氏が所属している吉本興業が、この小説を映像化し、ビジネスとして45分×10回で配信するというのだ。
これで、納得した。
これは、文学ではない。
新たなショウ・ビジネスなら、許せる。
「ラ・マンチャの男」も「レ・ミゼラブル」も文学作品であった。
それが、ミュージカルとして、ロンドン・ニューヨークで花が咲き、世界中で何十年も公演された。
もはや、原作を読もうとする子供はいない。
この「火花」もテストケースだ。
文学作品として、小説として駄作だが、新しい映像ビジネス立ち上げの花火になれば、銘すべしである。
ところで、8月30日、北京での世界陸上が終わった。
陸上競技部および経済学部の後輩の鈴木亜由子選手が、5000ｍ決勝で、15分8秒29の自己新記録で9位に入った。
8位入賞とは僅か0秒29差だ。
2007年9月、大阪での「世陸」は見た。
翌年のロンドンで入賞した朝原以下の４継が決勝に残ったのが収穫だった。
鈴木選手は、来年のリオでは、入賞するだろう。
今回も「世陸」の放送で、耳ざわりなのは、過剰な解説の声である。
織田、中井が、すべての競技を、元女子マラソンの二人が、主に長距離の解説で、のべつ声をだしている。
私は、ときどき音声を消して観ていた。
そもそも、陸上競技は、静かな闘いである。
どの種目も、投擲を除いて選手は声を発しない。
静寂、緊張のなかで、観客も競技に集中するのだ、
私は、メジャーリーグの野球は、よく見るが日本のプロ野球は滅多に見ない。
応援が、眼にも耳にも、うるさいからだ。
そこで、気がついた。
「火花」の映像化だ。
余計なものを取って、徳永と神谷の会話だけを、音にしたら好い。
そうなると、ただの漫才と変わりないが、二人の会話の場所、時間、などの状況がことなるので、それは、静かに映像で映すがよい。
従来の芥川賞、受賞作としては駄作だが、吉本の演出・営業力があれば、新しい、見世物を作るネタとして、使えるだろうと、思い直したのである。
