717 9電力体制の発足 2011.5.23
今日は、古い本の紹介により書いている。
「この自由党！」板垣進助 1952.9 理論社
著者は、占領下の7年、そのペンに鎖をつけられていた、日本の新聞記者たちの集合名詞、だと名乗って出版された前後2篇。
いま読み直すと面白い記述が多い。
どこまでが、正確な事実かは判らないが、「ニッポン日記」よりも生々しい日時、場所、人物名、金額などが出てくる。
つまり、５W１Hが、わかりやすい暴露本である。
その前篇153P−163Pは「電力私有化の大陰謀」である。敬称略。
昭和25（1950）年、日本発送電（株）は、資本金30億円、資産推計2000億円という巨大な独占事業であった。
これが占領軍の指示で分割されることになり、昭和26（1951）年5月1日、9電力体制がスタートした。
1）9電力の初代社長で、私が知っている名前は、中部電力の井上五郎、関西電力の太田垣士郎だけである。
だが、東京電力の会長は、一万田尚登のあとを継いで1954年から日銀総裁をつとめた新木栄吉であった。
東北電力の会長は白州次郎、九州電力の会長は麻生多賀吉であった。
2）占領軍の命を受け、分割を推進させられたのは、当時の吉田茂首相。
実際には白州次郎が動いた。
小林中、永野護、宮島清次郎等は、元東邦電力社長、松永安左衛門を分割問題の担当者として推薦。
「電力の鬼」と言われた松永の強烈なリーダーシップのもとに、9電力への分割案ができあがった。
3）日本発送電は分割に抵抗した。
これを自由党反吉田派の大野伴睦などが、同志と金を集めて、支援する。
1949年末から1950年春にわたった第7国会で9分割案が上程された。
これを阻止しようと、多くの政治家、財界人、金が動いた。
「この自由党」に登場する、政・財界人の名前と動いた金に目を見張る。
４）結局、GHQは、分割案の実行を吉田内閣に指示、1950年10月24日、ポツダム政令「電気事業再編成令」「公益事業令」を政府は公布した。
もちろん、国会での審議は終わっていなかった。
5）その後は、9電力の社長、会長人事をめぐって松永と、最後の日本発送電総裁になった小坂順造が激しく対立した。
焦点になったのは、東京電力と九州電力の会長、社長人事だった。
１社を９社に分割するのに、約1年半、大騒ぎして実現した。
それ以来、はじめての電力再編成を、これから実施しようとしている。
当時と決定的に違うことは、占領軍という絶対的な権威が、いまは居ないということである。
占領軍でなくても、強力な政権か、国民のコンセンサスが存在すればよい。
いまは、それも無い。
発送電分離、無理である。
電力再編成、不可能である。
大きな問題は先送りして、2-3年は復旧事業に専念することが、良いと思う。
